遊戯王カードで始める日本語(1)

公式ルールブック


 夏休み中は「中学部通信」はお休みです。この期間を利用して、日本語学習の一方法として、「遊戯王カード」(※注1)を利用した学習法を何回かに分けて紹介します。


はじめに

 世はヨン様ブームであります。(※注2)友人に「冬のソナタ」の台詞から出演者の表情、細かい情景描写まで、まるで実況中継のようにドラマを再現してくれる女性教師がいますが、彼女が『冬のソナタで始める韓国語』という学習書が有ることを教えてくれました。あのドラマの台本が、日本語対訳付で出ていて、それを憶えて韓国語を勉強しよう、というものです。本日はこれにあやかりまして、「遊戯王カードで始める日本語」と題して、日本語教育の一つの実践をご紹介させていただきたいと思います。


1、日本語学習の動機
 言葉の学習は一時の参加では学習にならず、継続して初めて、学習成果を得ることができる。そのために、充実した学習内容とともに、動機付け(モチベーション)の継続も常に要求されている。
 日本語を勉強しようという動機に「日本の漫画やアニメ・ゲーム」というのがかなりの比率を占めているのはよく知られているところである。ところが、日本の漫画が好きで日本語を始めても、日本語教育というのは、多くの場合、教育課程に添った日本語運用能力を養成する学習が主となる。そのような学習では、著作権の関係もあると思うが、動機付けであるはずの漫画やアニメ・ゲームなどはほとんど出てこないし、たとえ扱われても添え物になりがちである。「日本のアニメをやるぞ」と教室に入った生徒は、「これは本です」、「こんにちは」から始まる日本語に胸を躍らせる。ところが、「これで日本のアニメが分かるんだ!」というような根気と積極的な姿勢が無い限り、漫画やアニメ・ゲームが出てこない授業に、生徒は当初の動機との乖離を次第に感じ、学習が頓挫する場合も少なくない。私も、「もう少し続ければ、なにごとか分かるようになるのだが‥」と思いつつ、クラスから去って行った生徒をたくさん見送ってきた。
 では、学習の動機である「日本の漫画やアニメ・ゲーム」を学習内容に入れてしまえばどうなるか、そこで起こる問題点は何か、また、その克服の仕方について、今年1月から引き継いだJBC(→リンク集)のプライベートレッスンを例に、皆さんと一緒に考えていきたい。


2、動機付けとしての遊戯王カード

 生徒は、この9月から7年生になった男の子。両親の希望は「日本語に興味を持って、少しでもできるようになってほしい」というもので、特に「いつまでに何を」という具体的な数値はない。といっても、目にみえる形で運用能力の向上がないと、学習の継続すら危ぶまれるので、到達目標を「身の回りのものを日本語で表現し、日常の日本語でのコミュニケーションができる。ただし、プライベートレッスンであるため、本人が吸収できる程度」とされた。「日常のコミュニケーション」という学習目標は、外国語学習の初期で、まず目指すべきものとして、一般的なところであろう。
 ところで、前任者からの引継ぎ事項として、「生徒は遊戯王カードに大変興味があって、授業中に必ず持って来て、教師にもやるように誘う。ルールが難かしいが、親も勉強を続けさせるために遊戯王カードをやってくれと言っている。」という1項があった。
 授業に入ってみると、生徒はすぐに遊戯王カードを出し、教師の関心を少しでもそちらのほうに誘導しようとする。カードは日本生まれで日本語で書かれてあるから、日本語学習の一環ともいえるので、授業の最後の約10分間をカードに当てることにした。「勉強すれば好きなカードができる」という動機付けをねらったものである。
 「遊戯王カード」とは『週刊少年ジャンプ』掲載の漫画から生まれたゲームで、モンスターなどの描かれたカードを使って対戦する。英語版は一般のスーパーやおもちゃ屋などでも買え、当地の子供たちにも身近なゲームである。
 カードの種類は豊富で、1000を優に超しているのではないかと思われる。このカードの1枚1枚に名前と絵があり、小さい文字で、使い方が細かに書いてある。これを駆使して、対戦するのだが、生徒は、カードを見て瞬時に情報を読み取る。私は何度読んでも何のことか分からないのが常で、まったく勝負にならない。
 学習途上の児童の読解力で、このカードの日本語が分かるのはどうしてだろうか。丸暗記だとしても恐るべき記憶力だ。そう思っていた時、生徒が真新しいカードを持ってきて、「ゲームで使うから読んでくれ」と言った。父親のお土産だという。新しいカードを一刻も早く、一枚でも多く読み、ゲームで使いたいという生徒の願いは切実だった。
 彼の日本語は『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE 3』を学習中で、日本語学習でいう300時間に満たないレベルである。カードを読むにも、芥子粒のような日本語の活字は、文字という認識を持つことすらむずかしい段階である。(続く)→ http://d.hatena.ne.jp/kokuda/20090711


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  • ※注1‥「遊戯王カード」の正式名は「遊☆戯☆王OCG」というが、ここでは通称の「遊戯王カード」を使います。→http://www.konami.jp/yugioh/
  • ※注2‥発表当時の状況です。これは平成17年(2005)10月8日、ニューヨーク日系人会の日本語教育研修会で行われた講演要旨です。 "The Japanese American Association of New York (JAA)" 15 West 44th Street, 11th Floor, New York, NY 10036
  • 〔資料〕の必要な方は差し上げます。このページのコメント欄を使って連絡してください。コメントは管理者が公開を承認するまで公開されません。


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