遊戯王カードで始める日本語(3)

公式ルールブック



4、学習内容

 では、遊戯王カードを通してどのような日本語が学習できるだろうか。現在の学習は、生徒が読みたいカードを時間の許す範囲で読むという、恣意的なものであるが、次のような内容の学習ができている。

  • (1)漢字‥遊戯王カードでは、漢字を多用する文体を採用している。その関係で、学習の第1に挙げられるのが漢字の学習である。
  • (2)語彙・文‥次に遊戯王カードで学習できる語彙などについて取り上げる。
  • (3)言語の発見‥当然のことであるが、学習が進むと、生徒はその分、書いてあることが分かるようになる。

(1)漢字
 遊戯王カードを使っての学習では特に漢字を取り立てて学習することは無い。ところが、カードには、すべての漢字に読み仮名が振ってあるので、まったく漢字が読めなくても、常に振り仮名と漢字をセットで目にすることになる。文を読み、書き写すというだけの活動であるが、現在まで〔資料2〕(※注)のような漢字を含む言葉(単語、熟語)を学習した。この中には教師が遊戯王カードの勉強のために持ち込んだマニュアルからの物もある。

  • (1)漢字を含む語彙

 遊戯王カードでは、カードをゲームの場に出すことを「召喚」という。召喚にはいろいろな方法があり、条件付の召喚は「特殊召喚」と呼ばれ、その中でも「降臨」は、「定められた点数の犠牲(生け贄)を墓地に送ることによって、格別に強いモンスター(儀式モンスター)をゲームの場に出す」ことをいう。この「召喚」と「降臨」以外は、一般的な意味で解することが出来る。
 また、特別な読み方が、振り仮名で示されている例もある。現在まででは次の3つ。「雷」と書いて「いかずち」、「罠」と書いて「トラップ」、「場」と書いて「フィールド」がそれであり、他は一般的な読みの範囲である。したがって、遊戯王カードで学んだ漢字の読み方と使い方は、ほとんどが一般的に使えると言ってもよいであろう。
 例えば、モンスターの助数詞は「体」で表わしている。初めて見たときは「カードを数える助数詞としては大袈裟な」と思ったが、人とも動物とも物体ともつかない怪物の数え方としては、「1体2体‥‥」が適切ではないだろうか。また、この「大袈裟」こそが遊戯王カードのキーワードで、対戦者はカードという紙をいじくっているのではなく、カードを通して、宇宙もこの世も越えるモンスターの世界に自分を置いて本気になって戦っているのである。その姿は、「本」という、紙を綴じたものをめくるだけの行為に見えても、文字を読むことによって、本に書かれた世界に自己を同化している大人と同じものである。
 カードは、漢字を多く使う文体で、日常ではない大変な世界に人を誘うように工夫されている。その世界では、「カードを出す」ではなく「召喚」(指定された日時と場所に法的な目的を果たすために呼び出す)を使っても間違った使い方とはいえまい。「降臨」も、「遠い世界から特別に強いモンスターが戦いのためにやって来る。そのために自分は貴重な犠牲を払っている。」という対戦者の心情からすれば、よく考えられた上で採用された語ではないだろうか。

  • (2)漢字表

 遊戯王カードでは学習する漢字に偏りがある。たとえば、「召喚」は子供の日常生活ではめったに使われることがないと思われるが、遊戯王カードでは、ゲームを進めるための重要語である。では、どのぐらいの偏りがあるのであろうか。
 〔資料3〕「遊戯王カードの漢字表」(※注)は、先の「漢字語彙」を異なり漢字別に一覧表にしたものである。無印(特に記号の無いもの)は学習漢字、下線付きは学習漢字以外の常用漢字、*印は常用漢字以外の漢字である。現在までに出てきた漢字は合計208字、内訳は学習漢字185字、学習漢字以外の常用漢字17字、常用漢字以外の漢字6字である。割合は、学習漢字89パーセント、学習漢字以外の常用漢字9パーセント、常用漢字以外の漢字3パーセントになる。学習漢字は義務教育中に学習する漢字で、その割合が90パーセント近いという漢字の使用は、そんなに偏った使い方とは言えないと思われる。学習漢字は全部で1006字だから、その18パーセントが出てきたことになる。

  • (3)漢字使用の上限

 漢字の学習というと、通常、個々の漢字の読み方と書き方、熟語と用例の学習が中心になる。仮名ばかりの学習から漢字の学習が始まると、〔資料4〕(※注)のように、学んだ漢字がその都度入って、次第に漢字が増えていく。「学校」を習ったら「学校」が、「行きます」を習ったら「行きます」が、「私」を習ったら「私」が漢字になり、このまま行くと「*私話学校二行来増」のようなことになるのではないかという心配も冗談と片付けることはできない。生徒にとっては、漢字は学べば学ぶほど際限なく入ってくる底なし沼だ。常用漢字1945字というのはアルファベット26文字で全て間に合う人(英語使用者)には、とんでもない数字である。それも、すでにひらがなとカタカナを100字も習ったその上にである。
 漢字教育では、個々の漢字の読み書きとともに漢字使用の上限を教え、どこまで漢字で書くのかという過程が学習の早い段階で必要である。これに関して遊戯王カードには、漢字の多い文体で、自立語は漢字で書いても付属語は漢字で書かないという漢字仮名交じり文の完成形が示されている。生徒はこれを読んで書き写すという活動で、漢字使用の上限を知ることになる。(続く)→http://d.hatena.ne.jp/kokuda/20090725
(1に戻る)→http://d.hatena.ne.jp/kokuda/20090704

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  • ※注‥〔資料4〕「漢字の底無し沼」‥わたしは学校にいきます。→わたしは学校に行きます。→私は学校に行きます。→*私話学校二行来増
  • ※注‥〔資料〕の必要な方は差し上げます。このページのコメント欄を使って連絡してください。コメントは管理者が公開を承認するまで公開されません。
  • 上の絵は「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ公式ルールガイド」の表紙→ asin:408782134X

(続く)→http://d.hatena.ne.jp/kokuda/20090719
(1に戻る)→http://d.hatena.ne.jp/kokuda/20090704


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  • ※注‥〔資料2〕の必要な方は差し上げます。このページのコメント欄を使って連絡してください。コメントは管理者が公開を承認するまで公開されません。
  • 上の絵は「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ公式ルールガイド」の表紙→ asin:408782134X


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