親孝行するか?

 中学最初の夏休み、元気にすごしていますか。
 僕が中学生になって、はじめての夏休みは、ちょっとかわった登山でした。県の南部に山上ヶ嶽(さんじょうがたけ)という山があります。その頂上は山伏(やまぶし)が修行するところになっていて、大峯山(おおみねさん「大峰山」とも)といいます。中学生になると、ここに登って、山伏の経験をする「さんじょさんまいり」ができるのです。毎年、8月15日は、その「さんじょさんまいり」の日でした。
 「経験」といっても本気で、すべて、先達(せんだち)という山伏の言うとおりにしなければなりません。先達の指示通りに足を動かして進まないと身動きできなくなり、何百メートル下の谷底に落ちてしまう「ありの戸わたり」、先に進む人の白装束だけを頼りに真っ暗な中を進む鍾乳洞など、絶叫マシーンや、お化け屋敷など足元にもおよばない、本当にこわい所を通ります。意味不明の呪文(じゅもん)をとなえれば終わりという楽な所もありましたが、とどめは「西の覗(のぞき)」です。白いロープをたすきにかけてうつぶせになり、ロープを持つ先達に全く身を任せて絶壁に身を投げ出して谷底をのぞきます。先達は「親孝行するか?」と聞きます。「はい」と言うまで、いくら泣いても引き上げてくれません。
 中学生になって、体が大きくなって、生意気になりかけた子供の頭をガーンとなぐるような修行でした。
 不思議なことに、この修行の旅に、父親は何もしません。母が白装束(しょうぞく)を作り、祖母が修行のコースや呪文を教えてくれました。大峯山は男子の修養道場で、女性は入れないはずなのに、祖母や母は何もかも知っていて、教えてくれるのです。先達のいう「親孝行」とは「母親」のことかなとも思った、中学最初の夏休みでした。(写真は奈良県天川村


<夏休みの宿題>
(省略)