二宮金次郎

 先日、RO君が日本の古いお金をたくさん持って来てくれて、クラスのみんなで見せてもらいましたね。「古い」といっても、長い日本の歴史から見れば、明治時代以降の新しい紙幣でしたが、めったに見かけない貴重な物ばかりでした。
 その中で、おぼえのある一番古いものは「一円札」(写真)でした。描かれて入る人物は、二宮金次郎として知られている二宮尊徳(にのみやたかのり)です。二宮尊徳は両親をなくした後、苦労して十代で自分の家の再建を果たしました。やがて、その才能を認められ、大きい家や領地の財政を建て直し、人々に生きる希望を与えました。勤勉と倹約、報恩(社会への恩返し)をすすめ、その考えは「報徳思想」と呼ばれています。国の財政をはじめ、いろいろな行き詰った問題を解決しなければならない今日、二宮尊徳はあちこちで見直されています。
 かつて、日本中の小学校にたきぎを背負って本を読んで歩く二宮金次郎の像がありました。僕が卒業した小学校でも校門を入ってすぐ左側に石像がありました。「修學習業」と字が彫(ほ)られた、ふつりあいなほど大きい2段の石の台座の上にあり、回りは手すりが二重に取り囲んでいて、子供心にも「これはたいへんな人にちがいない」とまでは思っていました。前の石段が集合写真にちょうど良く、式の写真はたいていこの前でした。
 ロサンゼルスのリトル東京にも二宮金次郎の像があります。「勤勉、倹約、報恩」は、慣れない土地で生きて行かなければならない日系移民の道徳でした。二宮尊徳の一円札が発行されたのは昭和21年(1946)。敗戦で打ちひしがれ、多くのものをなくした日本人は、お札に二宮金次郎を見て安心したことでしょう。「円」は信頼される通貨として再出発しました。戦後最初の紙幣に二宮尊徳を描いたのは、「日本を建て直すのだ」という昭和の大人たちの強い意志だったのではないでしょうか。

人口減少社会の成長戦略 二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか? (文春文庫)


<今週の学習と宿題>
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