つるのおんがえし

 日本ではこのごろ大雪だといいます。景色をすっかり白くする雪には、昔からいろいろな話が伝わっていますが、「つるのおんがえし」もそんな中の一つです。
 来週、2月15日と16日にブルックリンのカンブル劇場(Kumble Theater)でアメリカのダンスチームが旧正月シリーズで「つるのおんがえし」をします。日本の雰囲気を出すのに、舞踊家の鈴木百(もも)さん(民舞座)がふりつけをしますが、鈴木さんの故郷は偶然にも「つるのおんがえし」のふるさとだったのです。
 鈴木さんの生まれ育った山形県南陽市には、「鶴がおんがえしに織った布」が伝わる珍蔵寺(ちんぞうじ)というお寺があります。お寺は、はじめ、鶴に布をもらった「金蔵」さんの名前をとって「金蔵寺」と言いましたが、めずらしい物がおさめてあるので、「珍蔵寺」になったそうです。お寺には山号(別名)がありますが、「珍蔵寺」は「鶴布山」です。町の川は「織機川(おりはたがわ)」といい、「羽付」や「鶴巻田」という所もあります。恩返しをした鶴は地名の中に生きているのです。
 めでたくて美しい姿の鶴も、何もかも真っ白に変える雪も人が作った物ではありません。人が織る布さえも、もとの糸は自然のたまもので、身体を包む暖かさと美しさに人の力を超えたものを感じて、こんな話が生まれたのかもしれません。
 ぼくの故郷には「繭塚(まゆづか)」があります。絹(きぬsilk)は、蚕(かいこ)の「まゆ」を高温で乾燥させてから取りますが、この時、まゆの中に生きていた生命は亡くなります。繭塚は蚕の命をとむらい、感謝するために建てられました。小さな絹のハンカチも、おびただしい数の命のたまものです。命を削って布を織った鶴の話は、物の大切さも教えてくれているようで、「むかしばなし」と、かたづけてしまうことはできません。
(写真は珍蔵寺の山門)

つるの おんがえし (いわさきちひろの絵本)


<今週の学習と宿題>
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